有機農業と遺伝子組換え技術

有機農業と遺伝子組換え技術

有機農業と遺伝子組換え技術に関して、わかりやすく説明しているところがありましたので紹介します。

GMO情報: 有機農業と遺伝子組換え技術

URL:http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/101/mgzn10109.html

農薬や化学肥料を使わないで栽培された有機農産物は健康や環境への関心が高まる中で、1990年代から欧米を中心に人気が高まり、大手のスーパーマーケットでも販売されるようになった。1990年代半ばに商業栽培が始まり、その後増加を続ける遺伝子組換え作物の普及が、一方で消費者の有機農産物志向に関与しているという経済学者の見解もあるように (Roe and Teisl 2007)、有機農業と遺伝子組換えはあまり相性が良くない。互いに対立しているというより、有機農業の生産者・消費者団体が、組換え食品や作物、さらに遺伝子組換え技術そのものを否定したり、一方的にマイナスイメージを強調したりする例が多い。遺伝子組換え推進の側も 「有機農業で世界の食糧生産が賄えるのか?」、「有機農産物の方が健康や環境に良いという確かな証拠は得られていない」、「組換えBt作物は化学農薬の使用量を減らして環境にも良いではないか」 などと反論することもあるが、両サイドの研究者が科学的根拠に基づき、互いに議論を闘わせることはほとんどないようである。

ヨーロッパの先駆的な有機農業団体の1つ、スイス有機農業研究所 (FiBL) の Speiser ら (2006) は、「有機農業と遺伝子組換え技術。どちらが善か悪か?」 といった議論はせず、「たとえ化学農薬を使用せず、環境への悪影響が少ないとしても、遺伝子組換え技術を利用した防除手段は有機農業では認められないのだ」 と述べている。遺伝子組換え技術に欠陥があり、人や環境に悪影響を与えるから、害虫防除用の組換え作物 (Bt作物) を否定するのではなく、遺伝子組換え技術に由来する防除手段は、作物、製剤にかかわらず、「天然物ではない (unnatural)」 ため、有機農業の定義上、いかなる場合の使用も認められないとして、世界の主要機関・団体が定めた有機農業に関する基準・原則を紹介している。

有機農業の基準

取りあげた基準は、(1) 国際有機農業運動連盟 (IFOAM) (民間の国際組織で100か国以上約700組織が参加) の基本基準 (IBS、1980年に最初の基準を制定)、(2) コーデックス食品規格委員会 (Codex Alimentarius) (FAO (食糧農業機関) と WHO (世界保健機関) による合同委員会) による指針 (1999年制定)、(3) 欧州委員会の有機農業に関する規制 (EEC 2092/91) (1991年制定、1999年に有機畜産物に関する項目を追加)、(4) 米国・連邦有機プログラム (NOP) (2000年制定)である。これらのいずれの基準でも、根拠に多少の差異はあるものの、遺伝子組換え技術に由来した資材の使用を認めていない。日本でもコーデックス基準など世界の動向に合わせて、JAS (日本農林規格)による有機農畜産物の定義を2006年11月に改訂した。有機 JAS で認められる農産物と畜産物は以下のように定義されており、ここでも遺伝子組換え技術の利用は一切認められていない。

表 JAS (日本農林規格) によって認証される有機農畜産物の栽培 ・ 飼育条件

有機農産物
1.種まき、または植え付け前2年以上、禁止された農薬や化学肥料を使用していない田畑で栽培する。
2.栽培期間中も禁止された農薬、化学肥料を使用しない。
3.遺伝子組換え技術を使用しない。
有機畜産物
1.飼料は主に有機の飼料を与える。
2.野外での放牧など、家畜にストレスを与えずに飼育する。
3.抗生物質等を病気の予防目的で使用しない。
4.遺伝子組換え技術を使用しない。
(農林水産省有機JAS規格に関するHPから抜粋)

有機農業とは 「○○を使用してはいけない」 と作物栽培や家畜の飼育方法を定めたものであり、生産手段の使用の可否が重要になる。農産物、畜産物とも 「遺伝子組換え技術の使用」 は一切認められていないが、農薬と化学肥料については、一切使用禁止ではなく、使ってよいものが決められており、上記の国際基準や日本の有機 JAS 規格でも、使用してよい農薬や化学肥料のリストが別添として記載されている。日本を含め、いずれの有機農業基準でも、土壌微生物の一種である Bacillus thuringiensis (バチルス・チューリンゲンシス) を製剤化した微生物農薬 (BT剤) は、生物的防除手段として使用が認められている。しかし、Bacillus thuringiensis の持つ殺虫成分を作物体内で発現するように遺伝子改変されたBt作物の使用はいずれの有機農業基準でも使用が認められていない。

「なぜ? おかしいではないか」 と思う人も多いだろう。「生物農薬のBT剤が認められるのなら、組換えBt作物も認めてもよいのでは」 と考える人もいれば、「BT剤も工業的に製造して商品化しているのだから、化学農薬と同じ。これも使用禁止にすべき」 と主張する人もいるだろう。事実、2000年に制定された米国の連邦有機プログラム (NOP) では、当初、Bt作物やウィルス病抵抗性の遺伝子組換え作物の使用を認める案が出されていた。この案は結局実現しなかったが、現在の NOP 基準では、天然物資材 (natural input) は原則使用可、合成物資材 (synthetic input) は原則使用不可とし、微生物農薬のBT剤は天然物資材とみなされ、有機農業での使用が認められている。

釈然としないところもあるが、それぞれの定義、基準で決まったことである。決まった以上、それに従うのが有機農業であり、生産者個人や地域団体ごとの柔軟な運用は認められない。公的に認められた機関・団体によって認証された生産者が生産した農畜産物だけが、「有機」、「オーガニック」 と表示することができる。このように、遺伝子組換え技術に関しては、良い悪いではなく、原理、原則から 「一切使用を認めない」 と定めているので、科学的根拠に基づいて、その是非を議論しても意味がないのかもしれない。しかし、Speiser ら (2006) は 「ある資材の使用許可の判断基準は社会・経済的条件にも影響され、社会的背景に応じて変化する」 とも述べている。将来、「化学農薬の使用量を減らし、環境への負荷の少ない遺伝子組換え技術は、使用を認める」 と有機農業の基準が変更される可能性がまったくないわけではないということだろうか。

有機農業技術から学ぶこと

たとえ、化学農薬の使用を減らし、環境への悪影響が少ないとしても、組換えBt作物を有機農業に取り入れることは、原理原則上、現段階では不可能である。しかし、遺伝子組換え品種の使用を含め、従来型 (慣行) の農業体系では、ある特定の農業技術や生産手段を使ってはいけないという制約はない。米国コーネル大学昆虫学部の Pimentel 教授らは、ペンシルヴェニア州の民間有機農業研究所、Rodale 研究所で22年間、従来型農法 (化学肥料使用) と有機農法 (家畜ふん尿とマメ科緑肥使用) でダイズ、トウモロコシ、小麦を栽培し、収益、生産費、環境への負荷などを比較した。その結果、収益性や雑草防除で克服すべきいくつかの課題があったものの、有機農法は一貫して環境にも生産コスト面でも有益な技術であることが認められた。Pimentel 教授らはこれらの技術のすべてではなく、可能な技術を従来型農法に採用するだけでも、環境への影響、エネルギー収支、経済収益面において持続可能な農業に貢献するとして、有機農業技術の部分的導入を提言した。彼らがあげた有機農業技術の利点はおもに4つある: (1) 栽培期間以外に被覆作物 (カバークロップ) を導入する、(2) 輪作を増やす、(3) 土壌有機物の投入量を増やす、(4) チッ素肥料、除草剤、殺虫・殺菌剤の使用量をできるだけ減らし、土着天敵や土壌微生物の効力を高める。これらのうち、1つでも採用することによって、土壌や水資源の保持に役立ち、病害虫や雑草の被害を減らすことができる。

今回比較された従来型農法では、遺伝子組換えダイズやトウモロコシ品種は用いていない。しかし、Rodale 研究所は米国でも先導的な有機農業推進団体であるが、決して遺伝子組換え技術を否定する姿勢はとっていない。2008年6月には、自らの研究農場で従来型農法 (組換えダイズとトウモロコシ) と有機農法による比較栽培試験を行うと発表した。「1947年に創立された伝統ある有機農業研究の地で組換え作物を栽培するとは!」 との反対意見もあったが、研究所は 「米国のトウモロコシやダイズでは遺伝子組換え品種がすでに慣行栽培であり」、「今までも従来型 (慣行) 農法区では (有機農業で禁止されている) 殺虫剤や除草剤を使用して比較試験を行ってきた」 と説明し、理解を求めている。

有機農業推進法と有機JAS規格

日本の市場では、ダイズやトウモロコシなどを原料とした食品に 「遺伝子組み換えではない」、「遺伝子組み換え不使用」 と表示されたものが多く出回り、組換え食品に対してマイナスイメージを与えている。一方、「有機食品」、「オーガニック」 という表示は 「健康によい」 などプラスのイメージを持たれる場合が多い。しかし、「有機」、「オーガニック」 と表示するためには、上記の表に示したように、かなり制限された条件で栽培、飼育しなければならない。ある年に害虫が大発生したため、その年だけ1回限りで使用禁止の化学農薬を散布しても、その年と以後少なくとも2年間はその畑で栽培された農産物は 「有機」 と表示することはできなくなる。このような例も含め、有機農業基準で定められた栽培、飼育条件を生産者がきちんと守っているかは、登録された認証団体 (certification body) によって厳しく検査される。いずれの有機農業基準でも、「厳格な検査による認証制度によって、生産者が有機生産手段を守っていることが消費者に理解され、有機農産物の価値が保証される」 とされており (Speiser ら、2006)、第三者機関による検査・認証が有機農業では必須の制度となっている。

2006年12月に 「有機農業の推進に関する法律 (有機推進法)」 が国会で成立したが、この法律で定められている 「有機農業」 は今まで述べてきた世界や日本の JAS 規格の 「有機農業」 とはやや異なっている。有機推進法の第2条 (定義) では、「有機農業とは、化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業」 と定めている。上表にあげた有機 JAS 農産物の条件のうち、「2.禁止された農薬、化学肥料の使用禁止」 と 「3.遺伝子組換え技術の使用禁止」 は同じであるが、「1.種まき、または植え付け前2年以上、禁止された農薬や化学肥料を使用していない田畑で栽培する」 は有機推進法では定めていない。また、たい肥作りや収穫後の汚染物管理についても、有機推進法では有機 JAS 規格のような厳格な条件を定めていない。有機 JAS 規格はコーデックス基準など国際的な動向に合わせて改訂された厳しい基準であり、一方、有機推進法は有機農業の普及・推進を目的として制定された。そのため、有機推進法に基づいて栽培された農産物が、必ずしも 「有機JAS」 として認証され、「有機栽培」、「オーガニック」 と表示できるわけではない。

おもな参考情報

Speiser et al. (2006) Biological control in organic production: First choice or last option? In An Ecological and Societal Approach to Biological Control (Eilenberg J. & Hoiianen H.M.T. eds), pp.27-46. Springer.
(有機農業生産における生物的防除: 最初の選択か最後の手段か?)

Pimentel et al.(2005) Environmental, energetic, and economic comparisons of organic and conventional farming systems. BioScience 55(7): 573-582.
(有機農業と従来農業体系における環境・エネルギー・経済面からの比較)

農林水産省有機 JAS 規格に関するHP
http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/yuuki.html

米国農務省・農業市場局 連邦有機農業基準 (PDF ファイル)
http://www.ams.usda.gov/AMSv1.0/getfile?dDocName=STELDEV3049688&acct=noppub

Rodale 研究所 (米国ペンシルヴェニア州)
http://www.rodaleinstitute.org/

Roe and Teisl (2007) Genetically modified food labeling: The impacts of message and messenger on consumer perceptions of labels and products. Food Policy 32: 49-66.
(遺伝子組換え食品の表示: 表示文と発信組織が、ラベルと生産物に対する消費者の認識に与える影響)

(生物多様性研究領域 白井洋一)

 

 

食の安全は現代日本の喫緊の課題となりました。遺伝子組換え・残留農薬・放射能汚染・F1種問題と課題が山積しています。

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