「F1種」野菜が危ない
現代の「種」は、異なった品種を掛け合せて作られたもので、
その初代だけが使われることから、1代目を意味する英語(first filial generation)を略して、「F1」種と呼ばれています。
なぜ1代目が使用されるかというと、異なった品種を掛け合せた場合「雑種強勢」といって、1代目だけ同じ形で同じぐらいの大きさのものが短期間で育つからなのです。
2代目以降は、形や大きさがまちまちになって、
取引される野菜の規格が決まっている今日、規格外の商品は殆ど売れないことと、
1代目のように一斉に収穫できず、収穫に手間がかかり生産性が悪いからです。
このような品種改良は、市場や流通の要望を満たす為、
1960年代ごろから野菜の雌しべに目的とする特徴を有する異なった品種の花粉を受粉させることで盛んに行われていました。
その際、自家受粉させないように、花粉が作られる前に人為的に雄しべを取り除く「除雄(じょゆう)」作業が行われていました。
ある時偶然に、玉ねぎのある品種で花粉を作らない雄しべが発見されました。
この植物は、「雄性不稔」と呼ばれる病気で、動物で言えば雄の無精子病に相当します。
病気とは言えこの性質を利用すると、面倒な「除雄」作業を行うことなく簡単に異なった品種を掛け合せて、「F1」種を作ることが可能であることが判りました。
その為他の種別の野菜においても、瞬く間にこの性質を持つ株を見つ出し、「雄性不稔」を利用した「F1」種は、様々な種類の野菜に急速に広がりました。
農協で扱われている「種」や一般の小売店で販売されている「種」は、すべてこの「雄性不稔」を利用した「F1」種です。
2009年6月の「日本農業新聞」では、フランスでは卵を産まない女王バチが続々と増えており、
ヒマワリ、ナタネ、トウモロコシの単作農業地帯で程度が大きいといいます(注:遺伝子組み換えによるトウモロコシ、ナタネの受粉は一般に風媒であるから、ここでの農作物はF1種のものであると考えられます)。
つまり女王バチの餌はロイヤルゼリーですが、そのロイヤルゼリーは、働き蜂が食した蜜などを体内で分解・合成して作られます。
そして「雄性不稔」植物の蜜から主に作られるロイヤルゼリーを、女王バチが何代にもわたり食することで、
生殖能力が極端に低いオスバチが生まれる為、女王バチが卵を産めなくなったのではないという仮説です。
さらに人間の成人男性におけるデータによると、色々な原因が考えらますが、
1940年代に精液1ccあたり1億5000万個だった精子数が、現在4000万個以下に減少しているそうです。
この原因の1つに「雄性不稔」の作物を食ることが、関係しているかもしれません。
「F1」種は、遺伝子組み換えによる種とは異なりますが、上述したような問題を抱えています。
現在も「F1種」は、ますます広がってきています。
さらに日本の主食であるお米でも、「F1」種が開発され、一部で販売・輸入されています。報道によると、今年から一部のコンビニにも供給されるようです。
将来、市場の農作物のすべてが、「雄性不稔」の「F1」種になる時代が、すぐそこまで来ています。
「雄性不稔」の植物は、遺伝子異常であり、自然の摂理でなら淘汰されていたものです。しかしながら私たちは、その異常な性質を逆手に取り、生産性が良く育て易いという理由から、このような「雄性不稔」の植物を増やし続け、販売しています。
この「雄性不稔」の「F1」種は、遺伝子組み換え種とともに、大きな問題ですので関心を持って、注視していきたいと思います。
多様性こそが自然の理であり、生命の理であると、フランス人植物学者ジャン=マリー・ペルトは述べています。現存する種の多様性を守ることは、調和のとれた都市の魅力や各々の民族の伝統を尊重することと同義であると、彼は熱く主張します。
科学者のみならず一般市民たちも、多くの種が絶滅の危機に瀕している現実を問題視し始めています。FAO(国連食糧農業機関)や各国の研究機関など、遺伝子バンクを設立してさまざまな植物の品種を保護することに乗りだしているところもあります。市民団体やNGOなども、在来種を保存したり自家採種を実践する草の根の活動を展開しています。
種の多様性を取り戻すために、私たちはいったい何をすればいのでしょうか?まず見直すべきは、農業のやり方です。現行農法においては、三点セットといわれる農薬、化学肥料、それらの使用に耐える品種が必須でした。しかしその過程で品種が画一化され、土壌を劣化させてきた事実があります。まずはこのことに向き合わなくてはならないでしょう。
農業の本文は、人々を食べさせることです。一時的な利益を追求するあまり、農地を傷めたり収穫を共倒れさせるようなことをすれば、飢えを招きかねません。従って、私たちは永続的な農法を採用すべきです。そのさい求められるのは、農薬と化学肥料を使わないことを前提とした品種なのではないでしょうか。循環する種子を復活させ、永続的な農法へ転換する、これができるかどうかは、私たちが自然に対して真摯な態度をとれるかどうかにかかっています。
参考文献
『ハチはなぜ大量死したのか』 ローワン・ジェイコブセン(著) 文藝春秋
野口 勲「ミツバチは、なぜ巣を見捨てたか?」
http://noguchiseed.com/hanashi/mitsubachi.html
ミトコンドリアゲノム変異が男性不妊の原因に
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20061003/index.html